寮通信

第227回「卒寮旅行」(2023/03/04 東大4年 北村 壮)

2023年度 卒寮旅行(2月23日~24日) 鬼怒川温泉

まだ少し冷たさを残す風が肌に刺さる朝、寮を発った。2023年度卒寮生の卒寮旅行の目的地は栃木県である。

卒寮生6名に加え、1学年下の代の自治会長を含めた7名が参加した。学年の垣根を取り払い、広く交流を持とうとする寮の方針は、卒寮旅行においても例外ではない。

さて、栃木の日光と鬼怒川に向かうため、まずは新宿駅にて特急スペーシアに乗り込む。この観光特急は、16年間に渡り1日4便を走らせていたが、ダイヤ改正に伴い1日2便となることが決定しているようだ。

列車は2列シートが2つという並びであり、今回の参加者は奇数人であるため、誰かが1人席となる。そこで先述の、後輩の中で唯一参加していた彼が1人席に名乗りを上げてくれた。その積極性は他の寮生の信頼を獲得するには十分であり、自治会長に選出されたことも頷ける。と思ったら、列車が走り始めるや否や、彼は最新のイヤホンをつけ睡眠をとり始めた。どうやら睡眠への積極性が大きかっただけのようだ。

そうこう特急が走行しているうちに、下今市駅に停車した。この駅で乗り換えて東武日光駅へと向かう。20分ほど電車に揺られ、日光東照宮の最寄駅へと着いた。

ここからバスに乗るか歩いて行くかという2択があったのだが、昼食を取れる店を歩いて探しながら日光東照宮へと向かうこととした。早速、いかにも地元に根ざしているラーメン屋「梵天」を発見し、皆で迷わず入った。腹ごしらえを済ませ、店を後にして日光東照宮へと歩みを進める。話も弾んでいたためか、すぐに目的地に着いた。

↑陽明門が日光の社寺の中でも有名なスポットの一つである。

徳川家康公を祀る世界遺産である日光東照宮は、荘厳という言葉そのものであった。ここでは、陽明門、三猿、眠り猫といった有名どころは無難に抑えつつ、最後に本地堂を訪れた。その天井は鳴滝と呼ばれており、竜の頭の下で拍子木を打つと「キィーン」という甲高い音が反響して竜が鳴いているように聞こえる。しかし、竜の胴体や尻尾の下で拍子木を鳴らしても何も聞こえないという不思議な現象を目の当たりにすることができる。ちなみに私は、「どこで拍子木鳴らしてもおんなじ音に聞こえるけどなぁ」という感想を抱いた。いつか私が竜の鳴き方の違いを感じることができるようになるまで、家康公は待ってくれるだろう。

日本の誇りたる世界遺産の観光を終え、宿へと向かった。電車を乗り継ぎ、鬼怒川公園駅から徒歩10分。途中で、千と千尋の神隠しで千尋が崩れて行くパイプの上を走るシーンに出てくるパイプぐらい年季のある橋を渡った。皆で恐れ慄きながら渡りきった時は、千尋の走り切った後の安堵を、自分のことのように感じ取ることができた。

宿は「あさや」である。あらかじめ宿の感想を言っておくと、最高、の2文字だった。学生の旅行で泊まることのできる最高レベルの宿を提供して下さった寮の自治会には感謝しかない。

宿の内観である。壮観だ。

学生が7人も集まれば当然、まずは風呂行こう、となる。この宿には3つほど銭湯があり、その1つに入った。サウナや源泉かけ流しの湯船で体を十分に温めることができた。

学生が7人も集まれば当然、風呂の後は飯行こう、となる。この夕飯のバイキングが筆舌に尽くしがたいのだ。とにかく圧倒されるほど満足した。しかし、尽くしがたいままでは寮旅行の記事にならないので、満足ポイントを3つ挙げる。「料理の種類多い」、「目の前で焼いてくれるヒレステーキ」、「ハーゲンダッツ食べ放題」の3本だ。特に、学生がヒレステーキを食べ放題できる機会はそうないので、私たちのテーブルだけでヒレステーキの食器を30皿ほど重ねたと記憶している。

そんなこんなで夕飯を終え、学生が7人も集まれば、飯終わったらもう一回風呂入ろう、となる。今度は、屋上にある露天風呂へと向かう。2月の夜は生身の体には寒すぎる。しかし、湯船にたどり着けばこちらのものである。空気の澄んだ夜空には星がよく似合っている。皆で言葉なく上を向いている。その静寂を切り裂いた誰かの「あ!流れ星!」という発言。絶望する私。私だけ流れ星を見逃したのだ。麻雀をする時も競馬をする時も運がないとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。この不運さに、果たして私は本当に大学を卒業できるのか一抹の不安を覚えざるをえない。そんな私を包んでくれた鬼怒川温泉に感謝。

学生が7人も集まれば、風呂上がりは桃鉄しよう、となる。たまたま私のチームが勝った。夜の3時に解散し、2部屋に分かれて眠りにつく。

2日目の朝。体に僅かに疲れを残した私たちを迎えてくれる朝食バイキング。昨日の夕飯と同じ場所で、思い思いの料理をプレートに乗せていく。ご飯派のもの、パン派のもの、うどん派のもの、フレンチトースト派のもの。人種のサラダボウルたる、和歌山県人寮らしい1日の始まりである。

その後、この素晴らしい宿をチェックアウトし、まずは鬼怒川温泉駅へ向かう。その途中で、千と千尋でニギハヤミコハクヌシが千尋に走れと言った橋ぐらい丈夫な橋を渡った。駅に着いてからは帰りのスペーシアの時間まで、二手に分かれる。滝へ向かう組と採掘場へ向かう組。古釜の滝で釣りをする組と大谷資料館で写真を撮る組。何をするのも自由である。気づけば帰りの列車の時間となり、気づけば疲労困憊の私たちは新宿駅まで眠りについていた。

↑大谷資料館                  ↑古釜の滝

非常に実りのある四年間の寮生活。その締めくくりに相応しい、七名での五臓六腑を癒す二日間の鬼怒川温泉旅行。八方美人ではない私たちであっても、和歌山県人寮には三拝九拝しても感謝しきれない。

以上